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青森地方裁判所 昭和24年(行)18号 判決 1949年12月01日

主文

被告が自作農創設特別措置法により

(イ)昭和二三年七月二日青森県南津軽郡石川町大字八幡館字沢田六三番地一号田(但し土地台帳上)二七坪

(ロ)同年九月二一日同上宅地八四坪

についてした、各買収計画決定はこれを取消す

訴訟費用は各自弁とする

事実

原告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求める旨申立て、その請求の原因として(イ)青森県南津軽郡石川町大字八幡館字沢田六三番地一号土地二七坪、(ロ)同上宅地八四坪は何れも原告の所有に属し土地台帳上の地目は、現在もなお田であるところ、被告は(一)昭和二三年七月二日(イ)記載の二七坪を自作農創設特別措置法第三条第一項第三号所定の小作地一町三反歩の超過田として、又(二)同年九月二一日(ロ)記載の八四坪を同法第三条により田畑八段数畝歩につき自作農となつた訴外佐藤平内のため同法第一五条第一項第二号により宅地として何れも買収計画を樹立した。しかし(一)(イ)記載の二七坪は原告においてこれを数十年間稲田として耕作して来、昭和二二年八月七日青森地方裁判所弘前支部でされた小作調停法による調停(同庁同年(セ)調第一二八号)により原告が平内の養父訴外亡佐藤養作に、目的建物所有賃料取引上相当金額、その弁済期毎月一二月三一日、始期同年度の米稲収穫後たる同年一二月一日の約で期間を定めず貸与引渡し、その後昭和二三年四月一日平内が養作の死亡によりその養母(養作の妻)と共に養作の遺産を相続すると同時に、右賃借上の地位を承継取得した。そして平内は、昭和二三年度において(従つて又該土地について本件買収計画が樹立された同年七月二日当時)内二、三坪に野菜を播種耕作しただけで、その大部分に毫も鋤鍬を加えず、これを宅地に改変する目的でこれに土砂を盛り上げ雑草の猖獗するままに漫然放置し従つて右土地二七坪は全然稲田ではなかつた。加之、右土地は(ロ)記載の宅地八四坪の一環としてのみ、経済上利用価値がありこれを稲田として耕作するは賃貸借の目的に反し、その効用を減損することが甚しい。なお右買収計画樹立当時、石川町所在原告所有の賃貸農地は九反一畝二一歩にして法令の制限面積一町三反歩に遠く及ばなかつた。即ち被告は平内が嘗て原告より賃借耕作していた原告所有同町大字八幡館字山下六番田一反九畝二歩、同上八番田二反一畝二四歩同上字沢田一四番の一号田二〇歩、計田四反一畝一六歩をも右買収計画樹立当時の原告の賃貸農地面積中に加算している。

しかし、この加算には重大な事実の誤認がある。抑々原告はその長男正雄外五名の応召により農耕人手に不足を来たしたため、昭和一八年中養作にこれを期間正雄が帰還するまで、賃料取引上相当額の金穀毎年一二月三一日支払いと定めて貸与引渡したところ正雄が昭和二一年九月帰還し、よつて以て賃貸借期限が到来した。そこで原告はその後屡々養作に右土地の返還引渡を要求した。が同人はこれに応ぜず竟に前記昭和二二年八月七日青森地方裁判所弘前支部で開催された小作調停法による調停で養作は原告に右土地を遅くとも同年度の収獲時期が終了する同年一二月三一日引渡すべき旨確約し同日までにこれを引渡し、爾来今日まで原告においてこれを自作して来た。従つて、その後昭和二三年七月二日右田四反一畝一六歩がまだ原告の賃貸小作地であることを前提とし、本件土地二七坪が所謂保有小作地超過部分に該当するものとして樹立された右買収計画は違法不当も甚しい。

(なお(イ)記載の土地二七坪が昭和二〇年一一月二三日当時は原告の自作田であつたから自作農創設特別措置法第六条の二又は第六条の五に基き所謂遡及買収計画を樹てることは固より法律上許されない)(二)養作は夙に北海道に開拓民として移住したが志を得ず昭和二年帰郷したから原告はこれを憐み請われるままに同人に同年当時まだ水田であつた(ロ)記載の土地八四坪を目的住宅建設所有、賃料、取引上相当額の金穀、その弁済又は納付期毎年一二月三一日の約で期間を定めず貸与引渡し、同人は翌昭和三年これに住宅一棟を建設し爾来これに居住以て右土地を宅地として使用しその後昭和二二年八月七日前記調停により該賃借上の地位を新たに確認され、昭和二十三年四月一日同人の死亡により、平内及びその養母においてその遺産を相続すると共に右賃借上の地位を承継取得し、今日に至つた次第であるが右土地は県道に副いその一角に乗合自動車停留所があり、交通至便、且つ附近に数多の人家が踵を接し、純然たる市街地の観を呈し、なお今回平内が自作農創設特別措置法第三条により売渡を受けた田畑全部八反数畝歩は何れも本件宅地を去る数粁の遠距離に位し、右農地の利用に直接役立たず仮りに若干寄与する所があるとしてもその賃借権は前記調停により再確認され且つ借地法により手厚い保護を受けることができるから事実上、経済上恰かもその所有権が平内に帰属する場合と殆んど選ぶ所がなく、なお又平内は父祖伝承の薬種商により渡世し、農業はその副業に過ぎない。従つて何れの点から観ても、右宅地を右農地利用の便益に供するためその所有権を平内に帰属させる必要は寸毫も存じない。

然らば本件各買収計画は何れも、違法且つ不当であり到底取消を免れない。

そこで、原告は(ロ)記載の宅地八四坪についての買収計画に対しては昭和二十三年九月二九日被告に異議の申立をし、同年一〇月四日申立却下の決定を受け同月一二日(イ)記載の土地二七坪(ロ)記載の宅地八四坪についての各買収計画決定に対し青森県農地委員会に訴願したが昭和二四年四月三〇日訴願棄却の裁定を受けた。

よつてここに右各買収計画決定の取消を求めるため本訴に及ぶと陳述した。(立証省略)

被告代表者は原告の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として原告主張のように(イ)記載の土地二七坪については、自作農創設特別措置法第三条第一項第三号により又(ロ)記載の宅地八四坪については同法第一五条第一項第二号により土地買収計画決定があつたこと、その主張のような異議申立、同決定、訴願、同裁判があり平内が自作農創設特別措置法により小作地八反数畝歩の売渡を受けたことは何れもこれを認めるが爾余の事実は全部これを否認する。原告主張の田四反一畝十六歩は(イ)記載の土地二七坪についての買収計画樹立当時平内の小作に係り原告の自作地でなかつたから右二七坪は同法第三条第一項第三号所定の地主保有小作地一町三反歩超過部分に該当し又本件宅地八四坪は平内が今回同法により売渡を受けた又は受くべき農地八反数畝歩の経営に必要不可避の賃借宅地でこれと不可分一体の関係にあり、何れもこれを同法により平内に売渡を洵に相当とするから本件各買収計画決定には毫も違法不当の点がない。

よつて本訴請求は失当であると具陳した。(立証省略)

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